インタビュー | 株式会社オーイーシー 加藤健様

今回、simoの壁画アート《Playful Flow》を納めた、大分県大分市の株式会社オーイーシー 代表取締役社長
加藤様にインタビューを行いました。
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(写真左:simo, 右:加藤社長)

ワクワクして仕事ができる ―アートによる居心地の良い空間づくり―

- 今回なぜこの新社屋にアートを導入しようとしたのでしょうか

我々のソフトウェア開発の仕事、プログラムをつくる仕事は、目に見えないんですよね。
だからそこに集中してしまうと非常に無機的になる。なかには「心」というものを痛めてしまう人も結構いて、仕事に潤いがなくなりがちです。
「会社の仕事って楽しくないよね」とか「早く家に帰りたい」というモードで人生の多くの時間を会社で過ごすのは不幸なことだと思うんです。

新社屋を作るにあたって、会社にきても「何かやっぱり楽しいよね。」「ワクワクして仕事できるよね」といった、すごく居心地が良い空間を実現しようじゃないかと考えました。
普通のオフィスではなく、「Playful (プレイフル)」といった、わくわくしながら楽しく過ごしやすい空間で「今日はここに座って仕事をしてみよう」と思えるような空間を作っていこうとしたんです。

心の健康に必要なものは会社にもあるべき

オープンスペースがあるだけではなく、そこにはウォールアートや美術品、いろいろな書籍を置き、自分の心の健康に必要なものは会社にもあるべきです。会社にいても、そういうものに触れたりしながら心豊かに仕事をすることが大切です。

心が豊かになれば、お客様に対して良い仕事ができるし、気持ちよく接することができます。人としていろいろな教養や素養を積むことにもなり、仕事の技術力を身につけるだけではなく、人間力をつけていくことになると思うんです。
「人として成長する」ことがお客様にとっても「このひとは人としても立派だし、信用できるよね」と感じてもらえるような。そんな働く場を目指そうということで新しいオフィスにアートを取り入れました。

アートからパワーをもらい、人間力と美意識を育てる

- 人によってアートがもたらす効果はそれぞれ違ってくるのではないでしょうか?
私は、絵画とか美術品を観るのが好きで、それによって自分が癒され、パワーをもらっているんですね。
あの絵は岡本太郎の絵ですが、絵を飾るだけで何もない状態とは全然違います。
観ることによって岡本太郎のパワーを感じ、自分のなかにパワーを注入できるんですよ。
みんな何か周辺からパワーをもらっているはずなんです。完全に孤立して生きている人なんていないですから、誰かに助けられたり、パワーをもらいながら仕事をしている、生きている。
そのパワーは何ですか?と問うた時に、アートも重要な役割を示すのではないかなと思っています。

《傷ましき腕》岡本太郎

そしてやはり美意識を鍛えるというのは非常に大事です。
我々は技術力を高めていかねばならない業種です。技術力を高めれば高めるほど、無機的になる危険性があるので、技術的なものだけではバランスが悪いと感じます。一緒に人間力と美意識を鍛えるのが大切だと思っています。
仕事中心、会社に来たら辛い仕事を1日8時間も費やしている、そういう人生じゃ意味がないわけです。8時間も良い時間、楽しく充実した時間にしなければならないなと感じます。
そうすると良い仕事もできるし、お客様にも評価されて収益にもつながると思います。

作品の選定プロセスを経験 ―仕事ではないプロセスが大事―

- 今回アートを導入することで社内での変化、気づかれたことは何かありますか?
今回部署の異なるメンバーが加わり、アートを決めるプロセスの中で作家さんの作品を見させてもらいながらディスカッションしました。彼らがどんな思いで作ったか?美術とか芸術というのはどのようにつくられていくのか? を皆で共有できました。選択プロセスは、まず少人数で経験したことが大事だったと思っています。
最後の選択に行き着くまで議論して、これまで触れたこともない人たちの話を聞いたり考えたりするプロセスが良かったなと。日頃の仕事の中で絶対にないプロセスなので非常に大事だと思い、これをどんどん広げたいと考えています。

多くの「引き出し」をつくり、人のこころが倒れないようにする

つまり、どんどんいろいろなことに興味関心をもって世界を広げることが人の心を豊かにして、引き出しが増えていく。
何も引き出しがないと倒れてしまうのだけど、少し辛いことがあっても立ち直れる、たくさんの引き出しがあるから支えがいっぱい増えていく。必ずそうなっていくと思うんですね。

アートプレイスさんに手伝ってもらったことが非常に良かったです。4人の候補作家のお話も聞けて、どの作品も良かったなと思っています。

- 普段アーティストとは、なかなか接点がもてないと思いますが、改めて話を聞く機会があると、全然違う世界に住んでいても、同じことを考えているんだとか、それぞれの違いとかを改めて認識できる機会になるのではないでしょうか。

世界が広がるということは、自分の考え方を修正していくこと

世界が広がるということは、自分の考え方を修正していくことなんですよね。結局人間なんて99%はバイアスがかかっているので「俺の考え」とか言いますが、ほぼ間違っていますから(笑)。
ただ単に思い込んでいるだけです。いろいろな人たちがいろいろなものを客観的に見ながら、自分の思い込みを修正し磨いていくものであって。

「芸術/アートと仕事とは何の関係があるんですか?」「なぜ会社がアートなんてやるの?」と仕事とアートが関係ないと思っている人もたくさんいます。「そういうことをする暇があったら収益をあげろ、売上利益だ、効率だ、仕事には何の関係もない」と言う人もいるかもしれない。
これも一見正しそうに見えるんですが、実はバイアスがかかっていて、大きな勘違いをしている。
仕事に必要ないかどうかではなく、必要なんだろうな、と一回思い返さなきゃいけないですね。
思い返せるかどうかが大きな分かれ道で、考えなければもうそこで終わってしまいます。

アーティストトークイベントにて加藤社長とsimoさん(株式会社オーイーシー)

自分をオープンにしてからこそ得られる出会い

思い返す力が仕事にも生かせるし、視野を広げることにもなる。「今までの自分とは違う自分を見つけ、新しい可能性を広げられるかもしれない」と思えるかどうか。なんですよね。
その意味では、出会ったことのない人や、観たことのないアート作品や読んだことのない書籍、さまざまなものに出会うことが人を豊かにしていくと思います。常に自分をオープンにしていくのが大切だし、それは人の幸せ感にもつながります。多くの人やものに出会ったほうが幸せになれると思うんですね。

アーティストトークイベントにて加藤社長とsimoさん(株式会社オーイーシー)

プレイフルなマインド

- simoさんに最終的に決定した理由をお聞かせください。

ひとつは、凝り固まった絵を描くのではなくて、とても幅広く自由な感じでものごとを捉えられていると感じました。我々にとってこれから先の方針として「Playful (プレイフル)」を掲げているし、もっとのびのびと自由な発想をもって、今のこの時代を「こう変えよう」と思えるような自由な発想をもち続けたいと考えています。今回はsimoさんに初めて会い、想像以上にそういうマインドを持っている方で、イメージしていた以上にいいなあと思える人でした。

今回新社屋を建てるにあたって、simoさんの考えていることが 実に我々が標榜していることと見事に一致しています。社員も私も、simoさんに出会ったことによって世界が広がったと思っています。

photo:久保貴史

100年企業のための文化づくり

58年目を迎え、今までどちらかというと売上至上主義できたけれども、これから先100年企業として目指そうという機運があるなかで100年続くとなると、企業としての品格・文化がどうしても必要になってきます。

今回新社屋ができたので、技術的な仕事のイベントもありますが、文化的なイベント、ゲストを呼んで芸術性や美術性や文化的な講演会を実施するなど、皆の心にもう少し何かを植え付けていくようなことを総務や広報に企画してもらいたい。それによって、徐々に会社の文化・企業の文化、「オーイーシーの文化はこういうものだ」と築き上げたいなと考えています。

その出発点としての中心は、今回のウォールアートになるだろうと思っていますね。そういう意味では、私にとっても、オーイーシーという会社にとってもアートは重要なポジションのひとつになるんだと思っていますね。

(聞き手:ArtPlace Inc.)

photo:久保貴史