再生、生きる力、エネルギー、命の循環を表現する多彩なアートワークが、医療施設の「おもてなしの心」を発信します。
Task プロジェクトの課題
山口県を代表する医療・研究施設である山口大学医学部附属病院の再開発事業にともない、多くの病棟が複雑に結びつく構成のなかで、各場所や動線の視認性を高め、建物に新たな息吹を吹き込む活力に満ちた空間づくりをおこなうことで、病院の「おもてなしの心」を発信するアートワークのあり方が求められた。
Solution アートプレイスの提案
アートワークの全体キーワードは、再開発事業であること、そして命を守る施設であることからも、「再生」とし、来訪者に再び生きる力、希望、エネルギーを与えるような多彩な作品群を設置。メインロビーや渡り廊下周辺、エントランスホール、エスカレーターホールなど、各棟を結びつけ、多くの人びとが行き交う場所に、場所の特性を際立たせ、人びとの動きを誘導するストーリー性あふれるアートを展開している。また、地域と連携を結ぶ機会として山口情報芸術センター[YCAM]との協働を図ったデジタルアートを導入し、ホスピタルアートの新たなアプローチに挑戦している。また2024年までにライトコートの立体作品やレリーフ作品、そして山口出身の詩人、金子みすゞの詩をテーマにした山口にゆかりのあるアーティストによる作品などが設置された。2025年に向けて新たな作品を設置する予定である。
Works 作品
レリーフ作品《ナツミカンの木》/《Summer Orange Tree》|C棟新中央診療棟 2F 廊下
山口県の県の花である「夏みかんの花」をモチーフに、豊かに育つ植物の未来につながるエネルギー、成長、再生を表現した。丸みを帯びた大小4点の変型パネルはそれぞれ花びら、つぼみ、果実や葉などをイメージで構成され、L字壁という特徴ある空間と一体化している。塗料をハンドペインティングするという独特な手法で描かれた作品群は、色彩が手の動きとともにダイナミックに混じり合い、活き活きとした印象に残る場所づくりに成功している。本作品は病棟と診療棟2階の結節点に設置され、人びとの動きを誘導するアイキャッチとしての役割も果たしている。
《ナツミカンの木》/《Summer Orange Tree》
2023
ペンキ, 変形パネル
デジタルアート《Daily Codes [365++]》/ 《デイリーコーズ [365++]》|C棟 新中央診療棟1F クロスラウンジ
本作は1 年365 日間を通して、日々変化するグラフィックにより構成されている。 これらのグラフィックは、作家自身によって365日分プログラミングされ、コンピューターを通じて計算、実行してディスプレイ上に描かれるという「ジェネラティブ・アート」の表現手法で制作された。テーマは「再生・光・エネルギー・成長」であり、地域の風景や自然物の有機的な印象とコンピューターによる幾何学パターンの融合がめざされた。毎月4日は山口県の観光名所がモチーフになっており、祝日祭日にはスペシャルなイメージが登場する。また毎日正午に1年分のグラフィックが 1 分間表示される。本作品は診療棟と病棟を結ぶフォーカルポイントである「クロスラウンジ」の柱と一体化してモニター2面で展開され、日々変化するグラフィックは行き交う人びとに時間や季節の移り変わりを感じさせている。なお、本作は山口情報芸術センター[YCAM]との協力により制作された。
《Daily Codes [365++]》/《デイリーコーズ [365++]》
2023
デジタルアート
レリーフ作品《動き出す》 640枚の絵でつくる10点のタングラム / 《In motion》10 tangrams made from 640paintings|C棟 新中央診療棟3F 廊下
本作は、もともとは2016年の病院再開発整備事業の際に、病院の未来への期待を込めて、B棟1F廊下に、患者さん、ご家族の方々、病院スタッフとアーティストによる協働を通じて制作された作品である。
タングラムとは、正方形を7つのピースに分割し、そのピースを組み合わせて形をつくるパズルを指す。ピースはワークショップ参加者が作成した、色とりどりのタイルによって彩られた。今回、B棟とC棟の改修工事にともない、形が組み替えられ、新たな作品として生まれ変わった。山口の風景から触発された本作品は、跳ねるうさぎ、舞う蝶や鳥、動き出す船、楽しそうに行き来する人々など、多彩なモチーフをリズミカルに配置し、動き出す力や無限の可能性を感じさせダイナミックな躍動感を空間に与えている。
《動き出す》640枚の絵でつくる10点のタングラム / 《In motion》10 tangrams made from 640paintings
2016-2023
サイズ | 可変
MDFにガッシュ, アクリルメディウム, 木, 合板
デジタルアート《re-pixcells》/《リ ピクセルズ》|B棟1F クロスラウンジ
本作は山口県の自然環境や地域性を捉えた20枚の写真を使用し四季の移り変わりや循環を表現している。1ループが約25分のプログラミングによって、写真を構成するピクセルが細胞のように次々と生まれ分解され動き出し、「かさね」と「ずらし」を繰り返し、新たな形と豊かな色彩を生成する。
その変化が植物の生長や自然のエネルギーを表して、人々が少しの間立ち止まり、人生の始まりと再生という力強いメッセージを感じる場所となっている。
制作は山口情報芸術センター[YCAM] の協力のもと、写真家 谷康弘さんをはじめ、山口大学写真部の坂口歩さん、原田誠朗さん、山本夏海さん、吉川優妃乃さんによって撮影された写真を使用している。
《re-pixcells》
2024
24分40秒(ループ)
デジタルアート
立体作品《Sweet Smile》/《スイート スマイル》|C棟 新中央診療棟1F ライトコート
ライトコートに差し込む光や微風によって、草の穂がキラキラと優しく微笑みかけてくるイメージを表現している。ステンレスのポールと楕円による複数の穂がランダムなラインや高さで配置され、軽やかに風に吹かれる草原のような雰囲気を醸し出す。また足元のグリーンを反射して時間によって変化する効果をもたらしている。
これら一群の穂が響き合い一体となって生命感やエネルギーを感じさせ、常に変化する外のフレッシュな環境を病院内にもたらし、人びとに新鮮な活力を与えてくれる。
《Sweet Smile》/《スイート スマイル》
2024
ステンレス, フェイク・グリーン, 化粧砂利
レリーフ作品《芽吹く》/《budding》|B棟 1F 廊下
本作品は植物が育つ様子を季節の変化とともに描いた連作で人々の導線に沿って、大小合わせて10ピースから構成されている。
山口県にはカルスト地形をつくる石灰岩の大地がひろがっており、宇部市でも石灰産業が盛んである。そこで本作では、川から採取した砂と、瀬戸内の牡蠣殻の石灰を練り合わせ、土地と深い関わりのある石灰モルタルを素材として使い制作した。生命力あふれる素材によって自然が循環し豊かな恵みをもたらしてくれるという一連の表現から、行き交う人々がポジティブなエネルギーとリズムを感じられる空間が創り出されている。
《芽吹く》/《budding》 (10点連作)
2024
川砂, 石灰, 顔料, セメント, 木製パネル
金子みすゞの詩によるアーティスト8名の平面作品|B棟 3-10F 各階エレベーターホール
病棟の各階エレベーター前には、山口出身の詩人、金子みすゞの詩をテーマに、山口ゆかりのアーティストによる平面作品を設置した。アクリル、刺繍、水彩画、油彩など多彩な表現でエレベーターを待つ利用者を和ませる空間を展開した。
《貝と月》 三浦光雅 | 3F
《お日さん、雨さん》 臼杵万理実 | 4F
《わらい》 保手濱拓 | 5F
《土と草》 土谷寛子 | 6F
《昼と夜》 吉田朱里 | 7F
《あふれる想い》《ものの見方》《希望》《優しさ》 難波瑞穂 | 8F
《枇杷の木》 ALIMO | 9F
《土と草》 佐々木範子 | 10F
制作年 | 2024
事業主 | 国立大学法人 山口大学医学部附属病院 |
所在地 | 山口県宇部市南小串1丁目1-1 |
アーティスト | 木下友梨香, 石井栄一, 末永史尚, mole^3, 平山悟, 鈴木初音, 三浦光雅, 臼杵万理実, 保手濱拓, 土谷寛子, 吉田朱里, 難波瑞穂, ALIMO, 佐々木範子 |
協力 | 山口情報芸術センター [YCAM], 山口大学写真部 |
撮影 | 谷 康弘 |
Art Direction | ArtPlace Inc. |